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きょくばだんの「トッテンカン」

曲馬団の「トッテンカン」

下村 千秋

「赤い鳥」赤い鳥社、1928(昭和3)年9~11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 16,620 字 · 34 页

青空文庫

二

二

火の見の立っている町の四つ角の、いちじくの葉が黒いかげをおとしているところに、一軒の鍛冶屋があります。ここに新吉という十一になる丁稚がいます。その朝も早くから、土間の仕事場で意地悪の親方にどなりつけられながら、トッテンカン、トッテンカンとやっていました。

すると、遠くから、ききなれない楽隊の音が鳴りひびいて来ます。はじめは、たまに来る活動写真の楽隊かな、と思いながら金づちをふりあげていましたが、だんだんその音が近づくにつれ、これはあたりまえの楽隊ではないぞと思いました。そのうちに楽隊の音は、軒下からのぞけば見えそうなところまで近づいて来ました。が、こんなとき、うっかりのぞいたりしようものなら、親方の金づちがこつんと向こうずねにぶつかって来ます。新吉は、いっそのこと、耳がなければいいなと思いながら、下くちびるをかみしめて、金づちをふり上げていました。

曲馬団の行列は、鍛冶屋の横手の火の見の下までやって来ました。と、まっ先の一寸法師が、くるりとうしろへ向きなおり、赤いトルコ帽を片手に取って差し上げ、

「とまれーっ。」と叫びました。からだに似合わず、太いしゃがれ声を出したので、見物人はびっくりしました。