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そがのあばれんぼう

曽我の暴れん坊

坂口 安吾

「キング 第三〇巻第六号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,123 字 · 19 页

青空文庫

平六の女房がしきりに十郎を口説いているのに気がついた留守を預る家来の者が、主家の一大事とばかり鎌倉の平六に注進した。そこで平六は頼朝からヒマをもらって今しも急いで戻るところだ。道に兄弟の姿を認めたから馬を寄せて、

「十郎どのだな。その大男は誰だ」

「弟の五郎です」

「貴公、拙者の女房と怪しい関係があるということを教えてきたものがあるが、まことに卑怯ではないか。尋常に勝負しよう」

「拙者はある事情によって命が大事でござるから、お怒りの段恐縮ですが、平に御容赦ありたい」

「なんの事情か知らないが、こッちの事情の方がお前の事情よりも一大事だ。女房と怪しい関係のある奴を見逃しておけるものか」

「いずれ後日とくとお話し致したい。本日は何とぞ見逃していただきたく、かように頭を下げてお願い致す」

またはじまったな、と五郎は背中から大きな弓矢をとり下した。大変に大きな弓だ。普通の倍もあろうという握り太の重籐の弓、一尺ぢかい鋭い矢の板をつけた長大の矢。はるか頭上にトビが二羽ピーヒョロヒョロとまっている。矢をつがえて満々とひきしぼって放す。つづいて二の矢。弓矢のとどく筈のないはるか天空のトビである。