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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
彼女はほんとうに喉がかわいていたのだから、真に迫って、ガツガツと一と息にそれを飲みほした。
あけみが少しおちつくのを待って、若い警官は手帳を取り出し、一と通り彼女の陳述を書きとったが、あけみの演戯は申し分がなかった。
今日の夕方から女中を自宅に帰したので、彼女は、主人とふたりのおそい夕食のあとかたづけのために、台所にいた。主人の書斎で何か物音がした、叫び声がきこえたように思った。様子を見るために二階にあがって、書斎のドアをひらくと、中はまっ暗で、ただならぬ気配が感じられた。壁のスイッチを押そうとして、手をのばしたとき、いきなり、うしろから組みつかれ、口の中へ絹のきれのようなものを押しこまれ、物も云えなくなってしまった。
それから、そこへ押しころがされ、両手をうしろにまわして、しばられ、両足もしばられたが、そのあいだに、窓からの月あかりで犯人の姿が、おぼろげに見えた。黒っぽい背広を着ていたように思う。背が非常に高いとか、低いとか、ひどく痩せているとか、太っているとかいう印象はなかった。つまり、からだにはこれという特徴がなかった。顔は全く見えなかった。