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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
黒っぽい鳥打帽をかぶり、ヴェールのように黒い布を顔の前に垂らしていた。全く口をきかなかったので、声の特徴もわからない。
主人の股野が、うつぶせに倒れているのも、月あかりで見た。殺されているのか、気を失っているのかわからなかったが、覆面の男にやられたことはまちがいないと思った。金庫のとびらが開いているのも、チラと見た。だから強盗かと思ったが、どうも普通の強盗ではないような感じを受けた。
それから、犯人はしばり上げたあけみを抱いて、寝室の洋服ダンスの中に入れ、そとから鍵をかけた。そして、そのまま立ち去ったらしく思われる。犯人は全く無言で、敏捷に働いたので、最初猿轡をはめられてから、洋服ダンスにとじこめられるまで、三分とかかっていないであろう。
あけみは話の途中から、ベッドの上に起き上がって、思い出し、思い出し、大体そういう意味のことを話した。彼女はその役になり切っていた。話しぶりも真に迫っていた。彼女は大胆にも、主人の股野重郎には愛情を感じていないことをすら、言外ににおわせた。
美少年の警官は、この美しい夫人が、夫の無残な死にざまを見たら、どんなに歎くだろうと、オロオロしているように見えたが、あけみは、まるでお義理のように、警官にたすけられて、夫のなきがらのそばへ行った。