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あさやけ
朝やけ
豊島 与志雄
「光」1947(昭和22)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,795 字 · 24 页
枕頭の水を幾杯も飲んだ。その水のコップに、へんに黄色がさしていた。持ちようによって、黄色は浮きだしたり消えたりした。それが、置床にある杜若の花の反映だと分った。
陶器の花瓶に三輪、無造作に活けこんだ、黄色い杜若の花だった。普通の白や紫の方がよほど綺麗なのに、どうしていやな黄色の花などを拵えるのだろう。――殊に、雪洞の二燭光で眺めると、その黄色は、殆んど生気がなくて造り物のようだ。――そんなことを考えていると、また、鼻先に、喜久子の耳が見えた。その耳も、なんだか黄色みを帯びている。気のせいか、雪洞の白紙も黄色みを湛えている。室の中の明るみ全体も黄色っぽい。おれは眼をこすり、立ち上って両腕をぐるぐる廻し、坐って額を叩いた。
「あら、どうしたの。」
喜久子がこちらを向いて、眼をぱっちり開いていた。その眼もちょっと黄色くて、そして何にも見ていないもののようだ。おれは頭から布団にもぐりかけたが、彼女の体温に引かれて、その大きな乳房に顔を埋めた。彼女は柔らかい片腕をおれの首に巻いた。おれの眼から涙が出てきた。悲しいのではなく、ただ涙がしぜんと流れた。それから、呼吸が苦しくなった。