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あさやけ

朝やけ

豊島 与志雄

「光」1947(昭和22)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,795 字 · 24 页

青空文庫

木の腰掛を置き並べたスタンド酒場で、通勤の少女が一人、通常の酒類にちょっとしたつまみ物、註文によっては同じ棟の料理屋から有り合せの物が取り寄せられる。帳場の奥に、彼女は寝室を一つ持っている。すぐ隣りには、中年の夫婦者が寝泊りしている。地階にも二家族住んでいる。ビルのこととて、夜間の戸締りは厳重だし、不安なことはない。――だが、喜久子は、その屋上から平地へおりて暮したがっている。

「家を一軒持ちたいんですけれど……。」

懇意な客に彼女はよくそう言った。

然し実際、彼女はそこに家を持っている。

「だって、こんなの、小鳥の巣みたいですもの。」

家が小さいという意味ではなく、屋上の高いところにあるからだ。

彼女は美人とは言えないが、まあ尋常な顔立だし、見ようによっては男の心を惹かないこともない。大柄だから小鳥とはおかしいにしても、もしも単に鳥であったならば、その鳥籠を平地に設けてくれる者がないとも限らない。だが彼女には、横着とも捨鉢とも見えるような鈍重さがある。肉体的な重みだ。昔は、かりにも「バー」と名のつく店の「マダム」は、何等かそれ相当なたしなみや気転を備えていたものだが、敗戦後はたいてい、「酒場のお上さん」