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もくせいのはな

木犀の花

永井 荷風

「中央公論 第六十二年第十号」中央公論社、1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,799 字 · 8 页

青空文庫

夜烏子は江湖に落魄し毎夕新聞社の校正係となって震災の未起らざる其年の夏病んで陋巷に死した。わたくしは老後兵火に家を失い、今猶人に笑われながらも、文を売って纔に口を糊している。

読者はわたくしが一夜木犀の花香に酔い、突然幾十年の昔を思返し、竹馬の友として妄にえらい人達の名を列記したのを怪しむかも知れない。わたくしを以て虎威を借る狐にあらずば晏子の車を駆る御者となすかも知れない。わたくしは寧欣然として此の嘲を受けるであろう。

昭和廿二年九月