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みらいのてんさい
未来の天才
豊島 与志雄
「人間 第三卷七月號」人間社出版部、1921(大正10)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,630 字 · 38 页
指輪や大島は、伯父から送ってきた金の残りで、別に使い途がなかったから買ったのであって、感謝のしるしまでに前以て差上げたのだと云った。現にまだ百二十円ばかり余分のものが残ってると、余計なことまで口走ってしまった。私はよほどどうかしてたに違いなかった。
老人は許すとも許さないとも云わなかった。所が急にこんなことを云い出した。
「私の肖像も一つ描いてお貰いしたいんですが、如何でしょうな。お礼と云っては別に出来ませんが、その代りに碁でも教えてあげることにしては……。」
そして彼は声高く笑い出した。私はそれが冗談だか本当だか分りかねて、半白の長い髯が笑いに揺ぐのを、ぼんやり眺めていた。すると、私にもその笑いが感染してきた。何とも答えをしないうちに、私は高く笑ってしまった。笑ってからはっとした。私は真赤になって顔を伏せた。じっとして居られなかった。そしてすぐに辞し去った。老人は別に引留めようともしなかった。静子は姿を見せなかった。
表に飛び出すと、背中と額とに冷たい汗が流れていた。何だか馬鹿にされたようで口惜しくて仕方がなかった。何かに力一杯にぶつかってゆきたくなった。