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みらいのてんさい
未来の天才
豊島 与志雄
「人間 第三卷七月號」人間社出版部、1921(大正10)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,630 字 · 38 页
何とも云えないいい気持ちだった。やがて私は煙草を投り出して、それから改めて、机の上に絵具のチューブや画筆などを並べて、しげしげと眺め初めた。終りに私の眼は、いつのまにかモナ・リザの画面に注がれていた。高く秀でた少し不気味な額、上目がちな深い眼、それらが静子によく似ていた。ただ、顔の下半部が非常に異っていた。静子の鼻はもっと短く、口がもっと小さく、頬がふっくらとしていて、輝かしい微笑が絶えず流動してるのであった。そう思ってモナ・リザの方をよく見ると、頑丈な先端に終ってる長い鼻や理知な※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)が、変に硬ばってるように思われた。謎の微笑の陰影のために、口元が何となく狐憑きみたいになっていた。ダ・ヴィンチは恐らく狐憑きの女の顔を知らなかったのだろう。そう思うと一人で可笑しくなった。
私は長い間室の中に寝転んで、自分の空想を楽しんでいた。お上さんが夕食の膳を運んできた時、喫驚して飛び上った。
「まあ、何を慌てていらっしゃるの。」
私はつっ立ったままお上さんの顔を見下した。私の様子を窺いながら答えを待ってる彼女の顔は、口が尖って額に皺が寄っていた。