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みかいなふうけい

未開な風景

宮本 百合子

「婦人公論」1927(昭和2)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,478 字 · 16 页

青空文庫

襖をあける。

眩しい。光の針束がザクリと瞳孔をさし、頭痛がした。

みのえは、

「ああくたびれちゃった!」

薬罐を置いて、油井の横へ、ぺたんと坐った。

「――御苦労さま」

お清は、生真面目な顔と様子で番茶を注ぎ出した。その真面目さが、みのえを擽った。みのえは、肩揚げのある矢絣の羽織の肩に自分の顎をのせるようにして油井を見ながら、眼と唇とで笑った。油井は、ちらりとみのえの笑いを照りかえしたが、素早く口元をたてなおし、睨むような真似をした。みのえは、少し体を動かして母親の方を向いた。

番茶を飲み終ると、

「さあ」

油井は立ち上って、銘仙の着物の膝をはたくようにした。

「もう帰らなくちゃ」

「そうですか――まあ、もうこんな時間かしら」

油井は玄関へ出て、外套や襟巻をつけた。お清が外套をきせかけてやる。みのえは、柱によりかかり、油井の一挙一動を見守った。彼が、真白い襟巻をきっちり頸につけて巻いた時、みのえは小さい声で、

「似合うのね、それ」

と感に入ったように囁いた。

「左様なら、またいらっしゃい。――お父さんにどうぞよろしく」

みのえは、母親の肩につかまって、やはりじっと油井が格子を出るのを見送ったまま、左様ならとも何とも云わなかった。