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ほんいんぼうしゅうさい
本因坊秀哉
野上 彰
「囲碁世界」1950(昭和25)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,685 字 · 6 页
ところで中盤の一手が難かしくて、ああでもない、こうでもないと、さかんにつつついているとき、ひよろりと人影が射した。本因坊名人だつた。それで、仲間の一人が「本因坊先生、ここ、どう打てばいいのですか」とたずねた。無口な名人は碁盤の前に坐つて「どれ、どれ」といつた様子で碁盤を眺め初めた。十分たつた、二十分たつた。本因坊名人が坐つているので、はたでがやがや喋舌つていた連中は、本因坊さんがなんというのか、それを待つて黙つていた。ところが、いつまで経つても黙つてタバコを吹かしているので、しびれを切らした連中は、なんとなく立ち上つて、その碁盤のお守りを本因坊名人にまかして、外へ出た。
出ればきまつてそのころは、三条河原町まで往復ぶらぶら歩いて一時間の散歩に行くのがおきまりだつた。お茶ぐらいは呑んだことだろう。歩き疲れ、喋舌り疲れて、さて川端の家に帰つてくると、みんなはおどろいてしまつた。夕闇の迫つた庭のほの明りに向いて、本因坊名人はさつきのまま端然と碁盤に座つて、つくねんと考えに耽つているのだ。それこそ、おどろいてしまつた藤田梧郎は、ずつとそばによつて、かしこまつて「本因坊先生、ここはどうなんでしようか」