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ほんしゅうおうだん つうかいとほりょこう

本州横断 痛快徒歩旅行

井沢 衣水

「冐險世界 第四卷第拾參號」博文館、1911(明治44)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,069 字 · 29 页

青空文庫

遠くには湯の湖、戦場ヶ原を隔てて男体山が毅然として雲表に聳え立っている。雄大な眺めだ。将軍山頂に便を催おし、叢の中に男体山を眺めながら、上野と下野の国境上に真黒な塊を残す。

深山を下ること二里余り、紺碧の水を湛えたる湖の畔へ出た。ここで渇したる咽を清水に濡おし、物凄き山中を行くと、深林の中に人が歩るいたらしい小径がある。物好半分の連中、早速行ってみると、驚くべし、人の住み捨てた家が壊れて雨に柱が朽ちかかっているのを見出した。棒の先で屋根の下を掘ってみると、中から出たのは人骨か、獣の骨か、――ゴソゴソとひと固まり。有繋の将軍も、「ヒャー何物!」。

何が出るか掘ってみようというので、なおも一生懸命に棒の先で掻き散らしてみると、出たものは土鍋の破片一個、茶碗三個、衣服ようのもの一つ、錆鉈一挺、一同不審の思をなしてここを出発した。これから丸沼へ出て、その次が大尻沼である。この湖畔に一軒の掘建小屋があって、ここには丈夫そうな漁師夫婦が住んでいる。ここで茶を貰い、昼食をすます。ここから人間の住んでいる村へ出るには、二里余の山を行かなければならないそうである。