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ほんしゅうおうだん つうかいとほりょこう
本州横断 痛快徒歩旅行
井沢 衣水
「冐險世界 第四卷第拾參號」博文館、1911(明治44)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,069 字 · 29 页
日はもう暮れに近い。それに雨が降って来そうになった。どうあっても八時に今市まで行かなければならぬ。仕方がない、今市まで馬車に乗ってウンと飛ばそうとなった。大原という処は鬼怒水電工事の中心である。ために入込んでいる工夫の数は三千人程あるという話だ。山間の僻地の割には景気がいいらしい。商賈もドシドシ建つようだし、人間の往来も多い。しかしながら、今まで素朴であった村邑が工夫という渡り物の来たためにアブク銭が落ち込むので、農家はいずれも半ば飲食店のようになり、善良なりし村家の戸毎から酒気溢れ、淫声戸外に洩るるようになったのは、残念で堪らぬような気がした。金力の跋扈、ことに下等獣類に等しき工夫共の手により質朴なる田舎に撤かるる悪銭は、実に慨嘆に堪えぬ。余計な心配だが、これから五年あるいは十年の後、工事了りて元の閑寂なる山村に帰った時、初めて眼醒むる彼等の苦痛は、一旦心に印せられた惰弱の風と共に永久に消ゆるの時がなかろう。可憐のものじゃ。
馬車に乗って二里の道程を飛ばすこととした。幸いに御者先生は十六、七の小僧君。将軍早速談判して、八時までに今市へ着けば五十銭の酒代をやることにした。