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ほんだな

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宮本 百合子

「書斎」1941(昭和16)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,015 字 · 8 页

青空文庫

ことにも承服しかねたらしい。段々二人の間に議論がおこって来た。そして、どちらも譲らなかった。本の計画は中絶したまま省吾叔父は亡くなった。日本へかえって亡くなるまでどの位の月日があったのだろうか。ほんの僅であったように思う。私が小学一年の頃で、駒本小学という学校の門のところへこの叔父が迎えに来ていてくれたことがある。大きい大きい大人の男が、髪を長くして肩のところ迄下げているというのは、何と珍しく、少し怖しく、それを見てびっくりする友達たちに愧しくきまりわるいような思いのすることだったろう。

省吾という人がそんなにしてアメリカなんかへ行ってひどいこりかたまりになってしまったわけや、日本へかえって来て、そこで亡くなった気持には、深い複雑な、そして痛切なものがひそんでいたらしく思われる。若い良人でもある兄も、若く美しい新妻であった母も、不言の裡に、この熱烈な気質の弟の決心の動機を理解していたと思える。それが奇矯ではあるが純潔なろうとする意志によっていることや、アメリカほど遠い海を踰えてしまわなければ、そしてやがてはその大きく強い情熱が理が非でも擒にしてしまう神だの地獄だのをつかまえておかなくてはならなかった内心の苦悩を、父と母とは同情をもって推察していたと思う。