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あんずのわかば

杏の若葉

宮本 百合子

「若草」1926(大正15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,738 字 · 6 页

青空文庫

いろいろそういう気持だのに、半町のところでも黙りこくって清二と家まで歩いて来なければならなかったら、どんなに工合わるかっただろう。

十五分ばかり経つと、清二が、太い羽二重の兵児帯をしめてやって来た。

「ア、ウ、ウ」

彼は、炉の横に坐って挨拶した。

母親は、やはりわからないくらいにだが当惑した風で、普通の人に云うように、

「ええお天気でござります」

と云いながら、茶を注いで出した。清二は、それを飲むと、直ぐ下してねかしてある柱時計を指さした。母親はいそいで合点した。清二は、節の高い指で裏蓋をあけ、複雑な機械のあちらこちらを試していたが、ぬいと母親と二人の方を見ながら、何かを掌にあけ、頭をこするようなことをした。

「アウ、アアア」

そして、発条にまた何かあけるようにする。

「何だろ、清ちゃん何がいるのかね」

「――母さん! 油、髪の油だわ」

ぬいは、小さい椿油の壜を出して来た。清二は、その壜を見ると、嬉しそうにうんうんをして手を出した。が直ぐまた別のものを探しだした。ぬいは、一生懸命になって、彼のいるものが、紙切れなのを当てた。清二は機械のところどころに少しずつ油をさして、やっと時計が動くようにした。