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あんずのわかば

杏の若葉

宮本 百合子

「若草」1926(大正15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,738 字 · 6 页

青空文庫

杏の若葉

宮本百合子

「おや、時計がとまっているでないか」

母親の声に、ぬいは頭をあげ、古い柱時計を見上げた。

「ほんによ」

「いつッから動かねえかったんだか――仕様ないな、ぬい、若えくせにさ、お前」

「だって母さん、耳についちまっているから判んなかったのさ。ほら――聴いてお見、カチカチ云ってるようだろ?」

杏(あんず)の若葉越しに、薄暗い土間にまで日のさし込む静かな午後であった。

「早く巻きな」

ぬいは煤けた大踏台を持ち出して、ギギギギと古風な柱時計を巻いた。踏台を降りようとすると、いつの間にかぼんやりした金色の振子が、西洋花を描いた硝子蓋の奥で止ってしまっている。ぬいは、また上ってねじをかけようとしたが発条(ぜんまい)は一杯だと見え、かたくて廻らなかった。振子を指で突つくと暫の間、コチコチコチコチ機械が動くが、それは一分も保たず、直ぐ止ってしまう。

ぬいは、踏台に立ったまま、胡桃(くるみ)割りをしている母親に声をかけた。

「この時計――どうかなっちゃった」

「なして」

「動かないもの――ちゃんと――ぼけたのね」

呑気に、尖の折れた帳綴じで胡桃の実をほじくっていた母親は、むきに、