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むらのせいこうしゃ

村の成功者

佐々木 邦

「現代」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,883 字 · 84 页

青空文庫

「あの辺の千円は此方の一円にもつくまい」

「まあ然うだろうね」

「兎に角、こゝは大頭を二人出しているから豪いよ」

と卓造君は羨しがった。

「君の方にだってあるじゃないか?」

「初めて博士が出たと思えば獣医学と来ている」

「成金がいるじゃないか?」

「あれはもう駄目だそうだよ」

「三井の支店長が出ている」

「あれは隣り村だ」

「兎に角、先輩に少しでも豪いのがいると心丈夫だね。僕のところの親父も漸く分ったようだよ」

「何が?」

「祖父さんが尾崎さんのことを話して僕の為めに弁じてくれたのさ。祖父さんも尾崎さんも吉川閣下も皆同年の寅兵だったそうだ」

「トラヘイ?」

「その頃寅の年のものから徴兵が始まったから、寅兵といったんだそうだ。しかし今と違って長男は当然免除される。ところが三人とも揃って次男坊だろう。尾崎さんと僕のところの祖父さんは狡い。俗に徴兵養子という奴に行って巧く免れた。吉川閣下はその頃から度胸が据っていたと見えて策を弄さない。取られて東京へ行ったのが出世の糸口さ。若しこゝにいたら矢っ張り畳屋をやっている」

「それは然うだろう」

「尾崎さんだってその後食いつめて東京へ出たから、あれ丈けになったんだぜ」