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いなかがえり
林芙美子随筆集
林 芙美子
林芙美子『林芙美子随筆集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:田舎がえり、落合町山川記、貸家探し、生活、文学的自叙伝、恋愛の微醺、朝御飯、着物雑考、新生の門、平凡な女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,157 字 · 118 页
梯子段は途中で曲ってなお二、三段急になっている。上は真黒で、差配のつく杖の音だけが廊下に音している。雨戸の隙間からにぶい光線がやみくもに部屋の中へ流れていて、眼がさだまってくると、差配の爺さんはがらがらと雨戸を繰ってくれた。廊下へ出ると、路地がすぐ眼の下で牛乳屋も通る。豆腐屋も通る。豆腐屋もこの辺になると、リヤカアの上に箱を重ねてラッパを吹いて通る。
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「おいくら位なんですの」と訊くと、五拾円だと云った。敷金は四つ、なかなかいい値段だなと思いながら、押入れの鶴の絵に佗しくなったり、古新聞の散らかっている廊下に出て、この部屋へ寝床を敷いて寝る夜のことを考えるとあじきなかった。庭はとてもせまい。さるすべりと八ツ手と、つげの木が四、五本植って、離れの塀ぎわには竜のひげが植えてあった。「一度相談して参りますから」と云うと、差配は、「さようで御座いますか」と来た時と少しも変らない態度であっちこっち雨戸を閉め始めた。私も手伝って離れの戸を閉めて靴をはいたが、差配のお爺さんはなかなか出て来ない。暗いなかに、誰か人がいて、お爺さんをどうにかしたのではないかと、裏口へ曲ったが、もう差配の下駄はそこにはなかった。