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いなかがえり

林芙美子随筆集

林 芙美子

林芙美子『林芙美子随筆集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:田舎がえり、落合町山川記、貸家探し、生活、文学的自叙伝、恋愛の微醺、朝御飯、着物雑考、新生の門、平凡な女。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,157 字 · 118 页

青空文庫

私の隣の母娘は、もう勘定だ。この母娘は二人で平常暮らしているのじゃなくて、たまたま逢ったのだろうと思えるほど、二人の言葉や服装に何か違いがあった。娘はクリーム色の金紗の羽織を着て、如何にも女給のようだったし、母親は木綿の羽織に、手拭いで襟あてをしていた。

浅草から帰ったのが七時半ごろ、貸家も何もみつからなかったが朝の憂鬱をさばさばと払いおとした気持ちであった。私は年寄りの部屋で手焙りに火をおこして文字焼きの用意をした。忙がしいはずの私がうどん粉をこねたりしているのを家人たちはびっくりして見ていた。文字焼きで、あはあは笑ったりして、早く寝てしまったが、その翌る日、私の憂鬱は再びかえって来た。豊島薫さんが亡くなったと云う郵便が来たり、厭な手紙ばかりだった。豊島さんへは二、三日前花束を持って行ったが、あの花束は亡くなられた豊島さんの枕元でまだ咲いているだろう。私は風呂をわかして二度も三度も這入った。落ちつかないと、私には風呂にはいりたがるくせがある。「豊島さんへ行ったの何時だったかしら?」と年寄りに訊くと、十八日だと教えてくれた。都の上山君が、あやふやな番地を教えてくれたために、半日、阿佐ヶ谷の町を、家にいる小さい書生さんと歩きまわった。