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かき

柿

山本 周五郎

「現代」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,565 字 · 25 页

青空文庫

一

一

「おい牧野、起きないか」

「勘弁して呉れ、本当にもう駄目だ」

「……仕様がないな」

起しあぐねて兵馬は振返った。

「ちょっと手をかして呉れ小房、どうしても動きそうもないぞこれは」

「兄上さまがお悪いのですわ」

小房はやさしく兄を睨んだ。

「幾らお止めしてもきかずに面白がってお飲ませなさるのですもの、こんなにお酔わせして了って、……きっとお苦しいわ」

「己もこんなに酔わせるつもりはなかったさ」

兵馬は妹の非難をそらすように、酔い倒れている牧野辰之助を抱き起しながら、低い声で云った。

「なんだか今夜は妙に、牧野がなにか話しだしそうな気がしたものだから、酔わせれば楽に云えるだろうと思ってつい度を過して了ったんだ」

「なにか御相談ごとでもお有りでしたの」

「相談という訳ではないが、……なんだかそんな風に思えたので、……つまり」

兵馬は妙に口籠って了った。小房はそれではっとしながら、慌てて寝衣をひろげ、辰之助の肩へと着せかけた。

「灯は持って行ってあるな」

「はい」

「では運んで行ってやろう」

着替えをさせた辰之助の体を、兵馬は担ぐようにして次の間へ運び込んだ。

婢のかねと共に酒席の後片付けをしてから、酔い覚めの水を持って小房が寝所へ入って行くと、暗くしてある有明行灯の光の下で、辰之助がふっと夜具の中から笑顔を見せた。