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かき

柿

山本 周五郎

「現代」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,565 字 · 25 页

青空文庫

二

二

小房は眠れぬままに同じことを幾度となく繰返し考えていた。

十二時の鐘が聞えて来た。

もう眠らなければと思い直して、厠へ立った小房が、手を洗おうとして小窓を明け、ふと眼をあげたとき、庭前にある柿の古木の上に人の蹲っている姿をみつけてはっと息をひいた。

――賊だ!

そう直覚したのである。

その柿の木は五十年の古木で、地上九尺のところから二股に分れ、ひと枝は屋根の上まで伸びている。怪しい人影はその大枝の上にぴったり身を伏せ、然も少しずつ屋根の方へ這い寄って行く様であった。

――引窓から忍び入るつもりなのだ。

小房はそっと引返した。

そして手早く帯を締直すと、長押に架けてあった薙刀を取下ろし、鞘を払って静かに庭へ出て行った。……賊に忍び込まれることは武家にとって恥辱とされている、兄を呼起すまでもなくひと威しに逐い払うつもりなのだ。

足音を忍ばせて柿の木の下へ。

怪しい人影はまだ枝の上に蹲っていた、小房は静かにその大枝の下へ近寄ると、薙刀を中段に構えながら、

「……曲者!」

と鋭く叫んだ。

「下りて参れ、神妙にせぬと斬り捨てるぞ」

「あ、……待った」

さっとひと薙ぎ、脅しの空打をくれた。