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かきいろのかみふうせん

柿色の紙風船

海野 十三

「新青年」1934(昭和9)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,032 字 · 28 页

青空文庫

娑婆の風は実にいいものだった。ピューッと空ッ風が吹いて来ると、オーヴァーの襟を深々と立てた。

「ああ、寒い」

風が寒いのを感じるなんて、何という幸福なことだろう。私は五年間に貰いためた労役の賃金の入った状袋をしっかりと握りながら、物珍らしげに、四辺を見廻したのだった。

そこへ一台の円タクが来た。呼びとめて、車を浅草へ走らせる。円タクに乗るのも、あれ以来だった。私は手を内懐へ入れて、状袋の中から五十銭玉を裸のまま取り出した。

「旦那、浅草はどこです」

「あ、浅草の、そうだ浅草橋の近所でいいよ」

「浅草橋ならすこし行き過ぎましたよ」

「いや、近くならばどこでもいい。降して呉れ」

私は綺麗な鋪道の上に下りた。だが何となく刑務所の仕事場を思い出させるようなコンクリートの路面だった。私は厭な気がした。

そこで私は、トコトコ歩き出した。

訪ねる先は、七軒町の玩具問屋、丸福商店だった。あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、相当まごついたが、やっと思う店を探しあてた。店頭には賑かに凧や羽根がぶら下り、セルロイドのラッパだの、サーベルだの、紙で拵えた鉄兜だの、それからそれへと、さまざまなものが所も狭く、天井から下っていた。