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かき

柿

山本 周五郎

「現代」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,565 字 · 25 页

青空文庫

四

四

「腹が減ったろう、まあ坐って呉れ」

「なんだか、まだ酒が残っているようだ」

「そんなものは食べれば直る」

兵馬はずかずか自分の席に坐った。

「飯を先にしような」

「うん、……それもいいが」

「飯が先だ、己はもう我慢がならぬ、おい小房、どしどし持って来て呉れ」

辰之助もようやく座に着いた。

小房は化粧をした顔を見られるのが恥しく、面を伏せたまま膳部を運び始めた。……辰之助の眼は、小房の美しさを見て明かに驚きの色を表わしたが、然しすぐ眩しそうに視線を外らした。

「どうしたんだ、ばかに今夜は固くなっているじゃないか」

「そんなことはないさ」

「さあやろう、小房の自慢の汁だ」

「……馳走になります」

辰之助が箸を取ろうとしたとき、家士の吉二郎が足早にやって来て、

「申上げます、牧野様お宅より急ぎのお使者でございます」

と知らせた。辰之助は箸を置いて、

「すぐ参る。……ちょっと失礼するぞ」

と立って行った。

急ぎの使者と聞いて、兵馬と小房はなにか不安なものを感じながら待っていた。辰之助は間もなく戻って来たが、元の座には着かずに立ったままで、

「折角の御馳走だが、拙者は頂戴している暇がなくなった、これで失礼させて貰う」