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えいぞうのし

栄蔵の死

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页

青空文庫

になった眼窩の様に、歯を損じた口のあたりは、ゲッソリ、すぼけて見える。

お節は、つぎものの手を止めて、影の薄い夫の姿を見入った。

地の見える様な頭にも、昔は、左から分けた厚い黒々とした髪があったし、顔も油が多く、柔い白さを持って居た。栄蔵の昔の姿を思い浮べると一緒に、小ざっぱりとした着物に、元結の弾け弾けした、銀杏返しにして朝化粧を欠かさなかった、若い、望のある自分も見えて来た。

無意識に手をのばして、自分の小さい櫛巻にさわった時、とり返しのつかぬ、昔の若さをしたう涙が、とめ途もなくこぼれた。

涙に思い出は流れて、目の前には、不具な夫の小寂しい姿ばかりが残るのである。

ややしばらく身動きもしないで居た栄蔵は、片手をのばして、お節の針箱のわきから、さっき来た手紙を取った。

娘の手蹟を、なつかしげに封を切って、クルクルクルクルと読んで仕舞うと、ポンと放り出して、

「あかん。

とうめく様に云った。

「何んや、

どこからよこいたんどすえ。

「東京――お君からよ。

病気になって、偉う困っとる云うてよこいたんや。

腰の骨が膿んだ云うてやが、そんな事あるもんやろか、

とんときいた事はあらへんがなあ。