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えいぞうのし

栄蔵の死

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页

青空文庫

を上眼に見て居た。

別にいい考えも浮んで呉れない。

「ま、何せ、旅費位、どうでもなるんやさかい、

ほんにいんどくなはれな。

今、十五六円ばかり、すっかりで、ありまっさかい。そい持ってお行きやはったら、ようおっしゃろ。

仕事の手間や何かで、私など、どうでもして行かれまっから。

お節は、気のすすまなそうに、行くとも行かんとも云わずに、ムッつりして居る栄蔵の顔を見た。

「そやな、

どうでも行かずばなるまいかな。

ほんに、私も貧乏な懐で、金のぱっぱと出入する東京には、行きとうない。

戻って来る時、財布は、空っぽになっとってる様やったら、随分、何だろが。

あらいざらいの金を、お手っぱらいに出した後をどうするのだろうと云う懸念が、栄蔵の頭からはなれなかった。

けれ共、行かないわけには行かない。

「お君も、縁に薄い子だすえなあ。

貧乏な親は持つし、いやな姑はんに会うし。

そいに、何ぼ何やて、お金はんも、あんな業慾な人やないやろ思うてましたものなあ。

まあ、まあ、

何んも彼も、めぐり合わせや。

私が、いくらややこしゅう云うたとて、何んもならへん……

と云うと、お節は、心配にだまり返って、仕事を片づけ始めた。