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えいぞうのし

栄蔵の死

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页

青空文庫

お節は、二十二三になる頃までにはあの社で一かどの者になれる望がこの事で根からひっくり返って仕舞わないかと云う不安に、川窪でいずれそうなったら運動もしてくれるだろうが、今度の礼と一緒に念のためにたのんで置けと、まだ着物も着換えない栄蔵の前に硯箱を持ち出したりした。

兄を兄とも思わないで、散々に罵って好い気で居るお金に対して女らしい恨み――何をどうすると云う事も出来ないで居て、只やたらに口惜しい、会う人毎にその悪い事を吹聴する様な恨みが、ムラムラと胸に湧いてお節は栄蔵を叱る様に、

「そやから、あんたもだまって云わいで置かんで、つけつけそな事云うもんやあらへん云うてやりなはればいいに。

だまって聞いてなはるから益々図に乗ってひどい事云うのやあらへんか。

と云った。

先の金を返さないうちは、お金はどうせああなのだと云って、栄蔵は、もう東京の話はせず、早速明日から、山岸の方へ行って見なければならんと、川窪からもらって来た心覚えの書きつけだの、馬場のところへ行って相談しなければならない事などを書きとめたりし始めた。

お節は、礼心に送るのだと云って、乏しい中から、香りの高い麦粉を包んだり、部屋の隅の自分の着物の下に置いてある、近所の仕立物を片したりして、急にいそがしくなった様に体を動かして居た。