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くりのはな

栗の花

岡本 綺堂

「木太刀」1919(大正8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,717 字 · 6 页

青空文庫

ここらでもその栗の木は名物になっているとみえます。その以来、わたしも栗の木に少からぬ注意を払うようになって、公園へ行っても、路ばたを歩いても、色々の木立のなかで先ず栗の木に眼をつけるようになりました。

それから一週間ほどたって、私は例のストラッドフォード・オン・アヴォンに沙翁の故郷をたずねることになりました。そうして、ここでアーヴィングがスケッチブックの一節を書いたとか伝えられているレッド・ホース・ホテルと云う宿屋に泊まりました。日のくれる頃、案内者のM君O君と一所にアヴォンの河のほとりを散歩すると、日本の卯の花に似たようなメー・トリーの白い花がそこらの田舎家の垣からこぼれ出して、うす明るいトワイライトの下にむら消えの雪を浮かばせているのも、まことに初夏のたそがれらしい静寂な気分を誘い出されましたが、更にわたしの眼を惹いたのは矢はり例の栗の立木でした。河のバンクには栗と柳の立木がつづいています。ここらの栗もブッシー・パークに劣らない大木で、この大きい葉のあいだから白い花がぼんやりと青い水の上に映って見えます。その水の上には白鳥が悠々と浮んでいて、それに似たような白い服を着た若い女が二人でボートを漕いでいます。