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きりゅうつうしん

桐生通信

坂口 安吾

「読売新聞 第二七七五五号~第二八〇二五号」1954(昭和29)年3月11日~12月6日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 16,394 字 · 33 页

青空文庫

とかか(呵々)大笑するわけにいかないのは当然で、そこで次のようないっそう珍しい事件が起ったのである。

被害者は告訴しないことを申合わせ、順に数名ずつの当番をSの店に泊まりこませて帰宅を待った。Sはある日の深夜二時にフラリ、店へ姿を現わした。それを捕えた当番の知らせで深夜というのに被害者が参集、隠匿財産を白状しろとつるし上げがはじまったのだ。

夜が明けるとヤジ馬が店の前に雲集したが、被害者が百人だから店内がまた立入りの余地もない。つるし上げる者、ソロバンをはじく者、毛布にくるまって眠る者、炊きだしの者、ごったがえしている。その日も夜を徹してつるし上げた。つるし上げる方は交代で存分に眠っているが、つるし上げられる方は眠らせてもらえない。しかしデフレを活用するほどの人物だからよく応戦したようである。これこれの銀行へこれこれの名義でいくらいくら預金したと渋々白状に及んだのが、はじめのうちはみんなデタラメだったそうである。

「桐生一の悪党はこんな顔の男だ」

と時々ヤジ馬の中へ突きとばし往来でも尋問したが、S君にとっては何より寝せてもらえないのがこたえたらしい。