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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

四

こう説明したけれども父はむやみに怒って、とうとう三日のあいだ暗い納戸で謹慎させられた。

四

悠二郎が若君の正篤と初めて会ったのは、明くる年の三月のことであった。――そんなことにならないように、自分ではかなり努力したつもりだったが、その甲斐もなく「御学友」にあげられてしまったのである。

浄松院という先の殿さまは、六年まえに二十三歳で亡くなられ、若君はまだ任官こそしないが、そのときすでに六万三千石の藩主であった。生母は清香院といって、幕府の連枝の松平の出であり、その実兄に当る松平外記が後見になった。――政治は合議制で、江戸と国許の全老職が参画し、そのなかで土井勘右衛門は若君の御養育を兼ねていた。

若君はそのころ信太郎といったが、悠二郎たちは「若さま」と呼ぶように注意された。――若さまは大きい表御殿とはべつに、奥庭の高みにある日月亭に起居していた。そこはまわりに松や杉の林があり、花畑や広い芝生などもあった。いちばん高い丘へ登ると、西は溜池から赤坂台から山王の森などがひと眼だし、東は表御殿の屋根の間から、京橋方面の下町が眺められる。……またそこを西へ下り、かこいの笠木塀を越えると、一段ずつ果樹畑とか菜園などがあって、いちばん下は小さな流れのある谷底のようになっている。