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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页
「鮒だの蝦だの獲れるんですよ、面白いぜ」
ほかのやつらには内証だからと云って、しめし合せて、例の屋敷境の谷へ下りていった。若君は笠木塀を乗り越えるとき泣きそうになり、台地を跳び下りるとき膝を擦剥いた。動作がのろくさして不器用で、つい舌打ちをしたくなった。
「もっとてっとり早くしなくちゃだめですよ、擦剥いたとこなんかうっちゃっときなさい、番人にみつかるとたいへんなんだから」
最後の菜園の、石垣を跳び下りると、その石垣のひとところ崩れた穴から目笊を取り出した。
――若君は不安そうにまわりを眺めまわしていた。うす暗くてじめじめした、狭い谷底のような景色にびっくりし、また不安で気持がおちつかないらしい。悠二郎はさあこっちですよと云って、蘆を掻きわけて流れのところへいった。幅三尺ばかりの、ほんの浅い泥溝川であるが、溜池に続いているので、そっちから小さな魚や川蝦がのぼって来るのである。悠二郎は慣れたようすで袴の股立をとり、はだしになって流れの中へはいると、たちまち小鮒を一尾すくいあげて来た。
「ほらね、獲れたでしょ、こいつはきんこってんだぜ、金色に光ってるだろ、金鮒ともいうけど、小梅のやつらはきんこってえんだ」