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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页
か、あんまり窮屈なんで浅草へ帰りたがって泣いてでもいらっしゃりゃあしないかって、――なんども夢をみたわね、母ちゃんって、はっきり呼ぶのを聞いて眼がさめるの」
「帰っていらっしたに違えねえ、ちょっと表を見て来るからって、そうじゃねえ夢だってえのに強情をはりあがってよ、寒いのに表まで出てみやがったっけな」
「外はまっ暗でしんと寝しずまってるの、来たことは来たけれど、叱られると思って隠れてるんじゃあないか、――暗い道にはまっ白に霜がおりてる、悠ちゃん、悠ちゃんって、裏のほうまで呼んでまわったこともあったわね」
「もうそんな話はいいや」
悠二郎はてれて起きあがる。
「久しぶりで肩でも叩こうか、母ちゃん」
するとおみつがぷっとふきだす。
「いやあねえ悠ちゃんたら、まるで取って付けたみたいじゃないの、ふだんすばしっこいくせにそんなことは気が利かないのね」
「黙ってろ、うるせえ、こっちあお祖父さんから云いつかってるんだ、さあ坐んなよ、母ちゃん」
「勿体ない、よして下さいよ、肩が曲るわ」
「あたしが叩くわ、あたしならいいでしょ」
「こうすると男親ってものは分の悪いもんだな、二人でそうやっておふくろのおっ取りっこをして、いってえおらあどうなるんだ」