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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

悠二郎はこう思って独り納得をした。

五月になってはたして重職の交替が行われた。勘右衛門が正篤のうしろ楯になったらしい、かなり広い範囲にわたる交替で、いちじは家中ぜんたいが騒然となった。――詳しいことは彼は知らない、祖父が幾夜も御殿に泊りこみ、国許とのあいだにたびたび早の使者が往復した。それは約ひと月ほどかかり、梅雨あけと共にいち段落ついた。

だが悠二郎にはなんの沙汰もなかった。

新泉が父の宗十郎を襲名して側用人にあげられた。原精一郎が納戸奉行になったには驚いたしその他にもむかしの学友のなかから二人、ふだん「あの男は」と云われていた者で、悠二郎の知っている人間が三人も重役についた。

そしてすべてが終ったとき勘右衛門が倒れた。

虚木老はもう七十六歳で、三年ほどまえから躯が弱っていた。あれほど遊蕩の好きだったひとが、あまり外出もしなくなり、家で飲む酒の量も減るばかりだった。――そこへ重職交替の騒ぎで、不眠の奔走もしたものらしい、つまりその過労が原因となって、なにもかも結着し安心すると共にがっくり折れた感じである。

病気は脳溢血で、倒れると同時に意識を喪い、ほんの二時間ばかりして死んだ。