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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

彼女の心はみたされたから。長い決意がみたされていたから。

上皇はわずかばかりの旅寝の日数のうちに、世の移り変りの激しさに驚くのだ。それは冬雲の走る空の姿でもなく、時雨にぬれた山や野の姿でもなかった。それは人の心であった。そして、それが自分の心であるのに気附いて、上皇は驚くのだ。上皇は冬空を見、冬のつめたい野山を見た。その気高さと、澄んだ気配に、みちたりていた。すでに彼女は道鏡に、身も心も、与えつくしていた。

天皇は上皇と道鏡の二人の仲を怖れた。押勝のために怖れたのだ。天皇は恋に就ては多くのことを知らなかった。彼は道鏡を見くびっていた。否、それよりも、上皇と押勝の過去の親密を過信し、盲信しすぎていた。

天皇は日頃にも似ず、上皇に対して直々諷諫をこころみた。上皇の忿怒いかばかり。その日を期して、二人はまったく不和だった。

*

上皇は出家して、法基と号し、もはや全く道鏡と一心同体であった。道鏡を少僧都に任じ、常に側近に侍らせ、押勝は遠ざけられた。彼はもはや上皇にとって、全く意味のない存在だった。

押勝は悶々の日を送り、道鏡に憤り、上皇を怨んだ。