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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

家康

徳川家康は狸オヤジと相場がきまっている。関ヶ原から大坂の陣まで豊臣家を亡すための小細工、嫁をいじめる姑婆アもよくよく不埓な大狸でないとかほど見えすいた無理難題の言いがかりはつけないもので、神君だの権現様だの東照公だのと言いはやす裏側で民衆の口は狸オヤジという。手口が狸婆アの親類筋であるからで、民衆のこういう勘はたしかなものだ。

けれども家康が三河生来の狸かというと、そうは言えない。晩年の家康は誰の目にも大狸で、それまで家康は化けていたというのだが、五十何年も化けおおせていた大狸なら最後の仕上げももうすこしスッキリとあかぬけていそうなものだ。関ヶ原から大坂の役まで十年以上の時日があり、その間家康はすでに天下の実権を握っており、諸侯の動きもほぼ家康に傾いていて、彼が大狸ならもっとスッキリやれた筈だ。十年余の長い時間がありながら彼のやり方は如何にも露骨で不手際で、まったく初犯の手口であり、犯罪の常習者、あるいは生来の犯罪者の手口ではなかったのである。

十三の年に伊豆へ流されてそれから三十年、中年に至るまで一介の流人で、田舎豪族の娘へ恋文でもつけるほかに先の希望もなかった頼朝だが、挙兵以来の手腕は水際立ったもので、自分は鎌倉の地を動かず専ら人を手先に戦争をやる、兵隊の失敗、文化人との摩擦など遠く離れて眺めてい