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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
その安心の油断のみが、百川の最後に乗じうる隙だった。
百川は道鏡にとりいった。全ての藤原貴族達も、おもねった。否、あらゆる人々がそうだった。
道鏡の故郷は河内の弓削だった。百川はことさら道鏡に懇願して、その栄誉ある法王の生国河内の国守に任命してもらった。
道鏡は天皇にすすめ、生地の弓削に由義宮を起し、西京とした。河内国は昇格し、河内職をおかれた。百川もこれに伴うて昇格し、河内職の太夫になった。
女帝も由義宮へ行幸した。歌垣が催された。するとこの地の長官たる百川は、それが彼の最大の義務であるように、自ら進んで倭舞を披露した。舞の手はさして巧くはなかったが、その神妙さ。一手ごとに真心をこめ、全心の注意をあつめ、せめてはその至情によって高貴なる人々の興趣にいくらかでも添いたいという赤心が溢れて見えるのであった。
道鏡は満足した。そして百川の赤心を信じこんで疑ることを知らなかった。
*
女帝は崩御した。宝算五十三。
道鏡の悲歎は無慙であった。葛木山中の岩窟に苦業をむすんだ修錬の翳もあらばこそ。外道の如き慟哭だった。一生の希望が終ったようだった。