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うめづしえんおうでん

梅津只円翁伝

杉山 萠円

「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页

青空文庫

舞台から引込んで来ると、自分の装束を脱がないまま他人の装束を着けている姿をよく見かけた。

月並能の後、一人頭二三十銭宛切り立てて舞台で御馳走を喰うのが習慣になっていたが、御馳走といっても、味飯に清汁、煮〆程度の極めて質素なものであった。ところで、その席上で気に入らぬ事があると、祖父は只圓翁を促してサッサと席を立った。

そのまま筆者の手を引いて帰る事もあった。

「老先生に対して済まぬという考えがない。あいつは下司下郎じゃ」

という事をアトでよく云ったが、何の事やら誰の事やらむろんわからなかった。とにかく祖父は何もかも只圓翁を中心にして考えていたらしい。

◇

そんな訳で筆者は九歳から十七歳まで十年足らずの間翁のお稽古を受けた。

翁も亦そんな因縁からであったろう。筆者を引立てて可愛がってくれて、僅かの間にシテ、ツレ、ワキ役を通じて記憶え切れぬ位数多く舞台を踏ましてくれたものであったが、正直のところを云うと筆者は最初から終いまでお能というものに興味を持っていなかった。ただ子供心に他人から賞められたり、感心されたり、祖父母から、

「お能の稽古をせねば逐い出す」