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うめづしえんおうでん
梅津只円翁伝
杉山 萠円
「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页
中に這入ると三十四五の女房と、蟇みたような顔をした歯の無い婆さんが出て来た。いやに眼のギョロリした婆さんであったが、先に出て来て筆者を見上げ見下すと、
「あんたは何しに来なさったな」
と詰問した。なるほど頭がテカテカに禿ている。着物のお蔭でやっと爺さんに見えないような婆さんである。
筆者は長い道中の間に用向きをハタと忘れているのに気が付いた。背中に短冊が這入っている事なんか恐らく翁の門を出た時から忘れていたろう。どうして何のために来たかイクラ考えてもわからないので泣出したくなった。
頭の禿げた婆さんは口をモグモグさせながら、怖い眼付で筆者を今一度見上げ見下した。
「どこから来なさったな」
「梅津の先生のお使いで来ました。あの……あの……」
今度は貰いに来た品物の名前を忘れている事に気が付いた。
婆さんは歯の無い口を一パイに開いて笑った。
「アッハッハッハッ。オオダイじゃろう」
「はい。オオダイ」
「ふうん。そんならそこへ手を突いてみなさい」
筆者は上り框へ両手を支いた。
「頭を下げなさい。そうそう」
婆さんは痩せ枯れた冷たい手で筆者の背中を探りまわして短冊を引っぱり出した。