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たてごし
楯輿
山本 周五郎
「日本士道記」晴南社創立事務所、1944(昭和19)年12月
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 8,377 字 · 17 页
四
という一語が脳裡をはしった。――ここでは死ねぬぞ、かれは歯をくいしばって呻いた。――口ぐせのように云ってきた覚悟の前にもここで死んではもの笑いだ、石にかじりついても、……かれは力のぬけた足を踏みしめて走りながら、片手の指を傷口へ入れてみた、さいわい弾丸は腸には届かないで、腹壁を刳ってうしろへ貫通していた、かれは腹帯の端を切って傷口へ填め、そのままひっしと敵の木戸へと跳り込んだ。
それからさきの委しいことをかれは覚えていない、木戸の内へはいるといきなり突っ掛けて来た敵があった、いちどはその槍をはねあげたが、二度めには躱しきれず、右の高腿をしたたかに刺し貫かれた。かれは横さまにのめりながら、長尾勘兵衛の冷笑する顔をまざまざと見たと思った。それはふしぎなほどあざやかな幻覚だった、かれはそのまま失神してしまったのである。
四
四人の部下が楯の上に与八郎を乗せて担いでいた。……重傷を見咎められて「清洲へ帰れ」と云われたが、どうしてもかれは部署から離れなかった。岐阜を落し、赤坂へ陣を進めると、楯輿に担がれてついて来た。ろくろく医療も受けず、殆んど自分の手療治なので、やがて銃瘡のほうが膿みはじめた。