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たてごし

楯輿

山本 周五郎

「日本士道記」晴南社創立事務所、1944(昭和19)年12月

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 8,377 字 · 17 页

青空文庫

けれども、福島勢が垂井へ移り関ヶ原へ進むにつれて、やっぱり楯輿に乗ってついて来た。「そんなからだでどうするんだ」みんながそう云った、「……まさか楯の上から戦場けんぶつでもあるまい」それは決して誇張ではなかった、二カ所の重傷でかれは立つことができない、だからこそ楯輿に乗っているのだ、戦場へいってどうするつもりなのか誰にもわからなかった。「強情をはらずに清洲へ帰って傷の手当をしろ……」口々にそう勧めたが、かれは石のように黙ってひと言の返辞もせず、楯の上にじっとつくばい、ぎらぎらと双眸を光らせていた。

天下を両分した東西二軍が関ヶ原に対峙すること二旬、九月十五日の未明を期してついに決戦の火蓋は切られた。左衛門大夫正則は味方の最左翼にあり、開戦と同時に西軍の宇喜多秀家の陣へ襲いかかった。そのときである、まさかと思った神原与八郎が楯輿に乗って戦場のまっ唯中へとびだしていった、四人の部下に楯を担がせ、自分はその上につくばって、幽鬼のような相貌で敵陣をにらみながら、むにむさんに戦塵の中へ突進した。そこではすでに銃撃から槍合せに移り、雨あがりの泥濘を踏みちらして敵味方の烈しい迫あいが展開していた。