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がっきのせいめい

楽器の生命

小川 未明

「随筆」1924(大正13)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,679 字 · 8 页

青空文庫

なんで私たちが、それを信じてはならないというはずがありましょう。」と、お嬢さんは、答えました。

「いやまったく、それにちがいありません……。」と、医者は、いうよりしかたがなかった。

彼女は、高価な金を出して、そのオルガンをお父さんから買ってもらうことにしました。それほど、お嬢さんは、このオルガンに憧れました。海を望みながら、はるか、異国の空の下で、この愉快な音を出す楽器が、何人かによって奏でられたり、また、この楽器が鳴りひびく夜が、ちょうどいい月夜で、街の中を歩いている人たちが、歩みをとめて、しばらく、そばの建物の中からもれる、オルガンの音色に聞きとれている有り様などを想像せずにはいられなかったのであります。

あちらの国から、オルガンが着きましたときに、お嬢さんは、どんなに喜んだでありましょう。それから、毎日、毎夜、オルガンを鳴らしていました。

それは、ほんとうに、愉快な音色でありました。ちょうど、柔らかな土を破って、芽がもえ出るような喜びを、きく人の心に与えました。

浜の人たちは、このオルガンの音を聞いてから、夜も、うかれ心地になって、波打ちぎわをぶらぶら歩くようになりました。