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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年9月~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 页
四たびめに二人は夫婦約束をした。健次は二十五になると店を持つことができる、それまで待ってくれ。ええ待っています。きっとだな。きっとです。と誓いあった。おすげは二十歳、健次が二十四歳。そして夫婦約束をした晩、米屋は山津波でやられた。二人も押し流され、泥水の中ではなればなれになった。
「そのとき男が云ったんですって、生きていたらここで会おう、死んだと慥かにわかるまで、決してこころ変りはしないって」とはつは自分のことを話すような、感情のこもった口ぶりで云った、「――ええここで会いましょう、あたしも生きている限り待っていますって、おすげちゃんも云ったそうよ」
さわは眼をつむった。その二人の呼び交す声が、はっきり自分に聞えるようであった。似たようなことがあるものだ、国吉と自分も同じような約束をした。いつかきっと迎えに来る、ええ待っています、五年でも十年でも待っています。そういう約束をしたのだ。
「あの山津波で葉川村はきれいになくなっちまったでしょ、残っているのはあの榎だけ」とはつは続けた、「いまではこの柳原が合の宿になったから、おすげちゃんもしようがない、ここの柏屋へ住み込んだわけなの」