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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年9月~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 页
半刻ばかりまをつなぐのが双方とも精いっぱいだったろう、女中が火のはいった行燈を持って来たのをしおに、さわは立ってその座敷を去った。
三月中旬に、茶の野だてを始めた。そのまえの日に、越前屋の安二郎が壺入の抹茶と菓子を持って訪ねて来た。午ちょっと過ぎだというのに、かなり酔って、部屋へあがるとすぐ水を一杯欲しいと云い、飲み終るといきなり、さわを抱きすくめた。愛情というよりも憎悪から出た動作のようで、激しく喘ぎながら乱暴に抱きすくめ、そこへ押し倒した。さわは少しもさからわず、眼をつむったまま、されるままになっていた。安二郎の手であらあらしく胸がひらかれ、伸ばした両足を左右にひろげて、裾が捲られ下衣が捲られた。安二郎は死にかけているけもののように、はっはっと短く喘ぎ、裸になったさわの両足のあいだに割り込み、のしかかって、あらわな乳房へ顔をうずめた。それでもさわは眼をつむったまま、身じろぎもしなかった。すると安二郎は泣きだし、さわからはなれて起きあがると、右手を曲げ、腕で顔を掩って泣いた。崩れたような坐りかたで、左手は畳へ突いていた。さわは起きあがって、衿や裾を直しながら立ってゆき、手拭を水で絞って戻った。