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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

そうなったらあとへひく男ではない。甲斐は駕籠に乗り、草履を預けた。

――まちがってはいないか。

駕籠が品川の下屋敷へ着くまで、甲斐は幾たびも自分の考えを検討してみた。

涌谷の訴訟が老中評定にかけられるとき、おそらく、伊達家の運命は決するであろう。家中紊乱という名目で、六十余万石は改易になるかもしれない。酒井忠清がこの機会を覘っていたことは慥かであって、たとえ改易にはならぬとしても、忠清が一ノ関に約束したようなかたちで、致命的な処置をとられるという予想は避けられないと思う。これに抵抗するみちは、加賀、薩摩の二藩を味方に付けることであるが、どちらにもまだ手掛りさえついていない。前田家とはいちおう連絡ができたけれども、警戒されてそれ以上は踏みこめなかった。

――もう少し時間があれば、必ずものにしてみせる。

だが時間がない。出府して来る涌谷の安芸には、途中で会えるように使者を出した、「老中評定だけは避けなければならない」という理由を詳しく書き、村山喜兵衛に持たせてやった。それには、本邸へはいるまえに、湯島の家でいちど泊ってもらいたい、とも書いたのであるが、はたしてどういう返事をよこすかわからなかった。