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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
大学は宇和島の遠州さまにも無実の訴えを出したという。
「今年正月、幕府に召された柴田外記から、涌谷の安芸さまに対して、出府すべしという内命が伝えられた。安芸さまは在所で首途の酒宴を催し、なお菩提所の円同寺に石水和尚を訪ね、法名を乞うたということである」
このとき仙台では、と甲斐は注を入れた。家臣の木幡源七郎と屋代五郎左衛門が、幕府国目付に訴状を出した。署名は陸奥守下中士共とあったそうで、またこれとはべつに、飯淵三郎右衛門、大河内三郎右衛門ら五人が申し合わせ、国目付が江戸へ帰任する途中、伊達桑折の宿で面会を求めて、訴状を呈出した。
甲斐は朱筆を置いた。
「まるで蜂の巣をつついたようなものだ」と彼は呟いた、「なんの統一も秩序もなく、われがわれがと自説を固執し、御家のためと云いながら自分の意志を押しとおそうとする、一ノ関や酒井侯の思う壺にはまった、これで膳立てはととのった、一ノ関は哀れだが、酒井侯はさぞ満足なことだろう」
甲斐はまた日記に眼を戻した。
「同じく二月十五日、涌谷さま上着、麻布屋敷へはいられた」
家老の亘理蔵人を使者に、両後見へ到着の挨拶をし、また陸奥守さまに献上品があった。