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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

「それが慥かなら、おそらくは仕遂げることができるだろう」

「話しは終った、鷺坂を呼ぶとしよう」と云って七十郎は手を叩いた。

ふじこが来て、鷺坂を呼び戻しにいった。十左は「酔った」と云って、横になるためにべつの座敷へ去り、七十郎は鷺坂と飲んだ。靱負は口の重い老人で、酒もあまり飲まず、おとなしく七十郎の相手になっているばかりだったが、やや暫くして、相談はどうきまったか、と気遣わしげに訊いた。

「どうなるものか、出頭するだけだ」と七十郎がむぞうさに答えた。

「――御出頭なさる」

「里見老は思いすごしている」と七十郎は云った、「いちど裁決されたものを、そう簡単に変えられるものではない、もちろんそれだけの覚悟はしなければなるまいが、とにかく出頭してみたうえのことだ」

「そうきまったのですか」

「ほかに手段があるか」

靱負は、いや、と首を振り、いかにも安堵したというふうに、深い溜息をついて、これでようやくおちつきました、と云った。

「里見どのはあのとおり一徹であるし、こなたさまの御気性が御気性ですから、どんなことになるかと思いまして、じつは――」

「じつは、どう思った」

「いや、これでおちつきました、胸のつかえがおりたようでございます」