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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
するとかよはすぐに、甲斐の膝へ腰をかけて、かよたんが折ったのよ、と持っていた折鶴を見せた。
「うそ仰しゃい」とおくみがにらんだ、「ばあやが折ったんでしょ、そんな嘘を仰しゃってはいけません」
「ええと、ええと、さいたんは七つでも抱っこをしますからね」とかよは話しをそらした。
おくみは、このごろかよが嘘をつく、とこぼした。よその子よりも知恵のつきかたが早いというのか、乳母や近所の子供などに、途方もないようなでたらめを云う。このあいだなどは乳母と日本橋(雁屋信助)へいって来て、おくみに、帰る道で火事があった、と話した。大きな火事で、家が百も焼けて、犬が千疋も死んだ、とまじめな顔で云った。本当だ、と念を押して云うので、乳母に聞いてみたらまったく根もないことだという。それでもなお「本当だ」と云い張り、おくみは、なさけないような気持になった、と云った。
「そういう時期があるものだ」と甲斐が云った、「想像力のつよい子供は、頭の中で考えたことを伝えるのに、言葉がみつからないから現実のように話す、私にも覚えがあるよ」
「でも嘘は困りますわ」
「嘘ではない、人を騙そうとするのは嘘だが、自分の感じたことを伝えようとするだけだ、そういうときはあまり咎めだてをしないで、聞きながしてやるほうがいい」