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はしのした

橋の下

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,189 字 · 25 页

青空文庫

四

そしてまた、その日その日の稼ぎに追われる生活では、どんな感情もすり減ってしまうのでしょう、――さよう、あとは申すまでもありません、四十の年を越すとまもなく、私は左足の痛風で力仕事ができなくなり、それ以来ずっと乞食ぐらしをしてまいりました」

そのとき、源心寺の鐘が鳴りだした。若侍は屹と顔をあげ、鐘の音につれてその数だけ、持っている湯呑を指で叩いた。気がつくと東の空が白んでおり、鐘は六つ(午前六時)であった。老人は若侍の顔を見やり、それから太息をして、自分に頷いた。

四

「この橋の下には、人間の生活はありません」と老人は静かに話を続けた、「こういうところで寝起きするようになってからの私は、死んだも同然です、橋の上とこことはまったく世界が違いますが、それでも私には、橋の上の出来事を見たり聞いたりすることはできます、世間の人たちは乞食に気をかねたりはしませんし、もうこちらにも世間的な欲やみえはない、ですからどんなこともそのままに見、そのままに聞くことができます、いいものです、ここから見るけしきは、恋もあやまちも、誇りや怒りや、悲しみや苦しみさえも、いいものにみえます」