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はしのした
橋の下
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,189 字 · 25 页
寒さは足をはいのぼって腹にしみとおり、躯の芯からふるえが起こった。彼はまた東の空を見あげたが、そこには朝のけはいさえなく、さっきよりは一段と星が明るくなったように思えた。
その若侍のおちつかない動作は、眼に見えないなにかに追われているか、または追いかけているようにみえた。白く硬ばった顔は硬ばったままで、感情の激しい動揺をあらわしているようであり、歩きまわる足どりや、絶えまなしに左右を見やる眼つきには、追いつめられたけものが逃げ場を失ったときの、恐怖にちかい絶望といった感じがあらわれていた。
「なにを、いまさら」と彼は呟いた、「もう考える余地はないじゃないか、これでいよいよけりがつくんだ、もうなにも思い惑うな、なんにも考えるな」
腹部から胸のほうへと、ふるえが波を打ってこみあげ、歯と歯がこまかく触れあった。彼は歯をくいしばり、足に力をこめて歩きまわった。やがて、源心寺で鐘が鳴りだした。彼はうわのそらで聞いていたが、ぼんやり七つ(午前四時)かぞえたのでわれに返った。
「七つじゃないか」と彼は云った、「捨て鐘をべつにして、たしかに七つだった、すると刻を間違えたのか」