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はしのした
橋の下
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,189 字 · 25 页
五
「こんどはゆっくりお話をうかがいたい、席を設けますが、来て下さいますか」
「いや」と老人は微笑した、「おぼしめしはかたじけないが、この御城下には少し長くお世話になりすぎました、じつは今日にもここを立とうと思っていたところです」
「お立ちになる」
「ひとところに長くいると、その土地の情がうつります」と老人は云った、「人にも、町にも、川にも草木にも、路傍の石ころにさえ、はなれがたい思いがしてくるものです、いや、この御城下には少し長くいすぎました、もうおいとまをしなければならないと思います」
五
若侍は刀を腰に差しながら、いかにも心のこりらしく云った。
「ではせめて、今夜だけでもここにいてくれませんか、私だけではなく、私の友人もいっしょに、もういちどお話をうかがいたいのですが」
老人は微笑した。もう若侍の白装束には眼もくれず、なにやらたのしいことでもあるかのように微笑し、二度、三度と頷きながら、穏やかな声で云った。
「ではそう致しましょう」
「きっとですか」
「そう致しましょう」と老人は云った。
若侍は老人の眼をみつめた。
――この人はいってしまうな。
と彼は思った。