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れもん

檸檬・ある心の風景 他二十編

梶井 基次郎

梶井基次郎『檸檬・ある心の風景 他二十編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:檸檬、ある心の風景、愛撫、ある崖上の感情、泥濘、闇の絵巻、冬の蠅、冬の日、闇の書、Kの昇天、筧の話、過古、器楽的幻覚、のんきな患者、路上、桜の樹の下には、雪後、城のある町にて、蒼穹、海、温泉。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 127,934 字 · 263 页

青空文庫

手品と花火

――ちょうどそれに似た気持で、えたいの知れない想い出が湧いて来る。

「ああかかる日のかかるひととき」

「ああかかる日のかかるひととき」

いつ用意したとも知れないそんな言葉が、ひらひらとひらめいた。――

「ハリケンハッチのオートバイ」

「ハリケンハッチのオートバイ」

先ほどの女の子らしい声が峻の足の下で次つぎに高く響いた。丸の内の街道を通ってゆくらしい自動自転車の爆音がきこえていた。

この町のある医者がそれに乗って帰って来る時刻であった。その爆音を聞くと峻の家の近所にいる女の子は我勝ちに「ハリケンハッチのオートバイ」と叫ぶ。「オートバ」と言っている児もある。

三階の旅館は日覆をいつの間にか外した。

遠い物干台の赤い張物板ももう見つからなくなった。

町の屋根からは煙。遠い山からは蜩。

手品と花火

これはまた別の日。

夕飯と風呂を済ませて峻は城へ登った。

薄暮の空に、時どき、数里離れた市で花火をあげるのが見えた。気がつくと綿で包んだような音がかすかにしている。それが遠いので間の抜けた時に鳴った。いいものを見る、と彼は思っていた。

ところへ十七ほどを頭に三人連れの男の児が来た。